Asian Performing Arts Camp オンライン活動の道のり:並走者としてのアシスタントライターの視点から
文:新井ちひろ(ファーム編集室 アシスタントライター 2023)
Asian Performing Arts Camp(以下APAC、あるいはキャンプ)の意義は、2か月間の活動を通してアーティスト達が思考を共有し、深め合うことにある。それゆえここでは、これまでの活動を詳しく振り返る。
Day 1(8月8日):
ファーム ラボのメンバーが互いに言葉を交わす、最初の日。本キャンプのあり方を説明する例として、roundabout(環状交差点)の概念がファシリテーターによって紹介された。異なる道が集まって束の間交差し、やがてまた別々の方向へと伸びてゆく。APACもそのような機会として想定されている。後半では、ウォーミングアップのためのアクティビティ(「ケア」を意識した簡単な質問に全員が回答する)を通して場が和んでいく様子が見られた。
Day 2(8月15日):
冒頭で、過去のキャンプでの活動がファシリテーターから紹介された。ファシリテーターを務める2名は、アーティストとしてAPACの前身となるプログラムにも参加していたのだ。コロナ禍以前は、夏ごろからアーティストたちが東京に集まり、まさに若手が「出会う」ための場として機能していたという。一方で2020年以降にオンライン化したキャンプの長所として、参加者たちがそれぞれの国にいながら交流することによって、バックグラウンドの違いがより実感されたことが挙げられた。後半では、アーティストたちが互いの関心を共有するためのブレインストーミングが行われた。各自がプロジェクトのキーワードを列挙し、つぎに互いのキーワードにコメントしていく。時々会話が途切れるなど、手探りで対話しているような様子も見られた。
Day 3(9月5日):
アーティストたちがプレゼンテーションを行い、これまでの活動や東京滞在に向けての計画をシェアした。それぞれの関心が接近するトピックや、共鳴する考え方も見えてきた。たとえば花形槙は《Uber Existence》や《still human》といった作品の中で、未来への想像力を提示している。他方、莊義楷(チャン・イー・カイ)はクィア・ユートピアというテーマを模索してきた。花形のテーマはテクノロジーとリアル空間のはざまにある人間の身体であり、莊のそれはクィアとしてのアイデンティティである。二人のテーマは異なっているが、将来の社会を思い描くという点で共通していると莊がコメントした。そのほかの参加者についても、前回よりも時間を取ってテーマ発表をしたおかげで、互いの関心がより明確に見えてきたのではないだろうか。
Day 4(9月12日):
この日の活動のメインは、翌週のOnline Sharing Sessionの打ち合わせである。Online Sharing Sessionでは、各アーティストが15分間で発表を行い、オーディエンスからコメントを受け取ることができる。内容のブラッシュアップから、テクニカル面の確認まで、アーティストとファームメンバーの間で入念な確認がなされた。たとえば、日本のオーディエンスに馴染みのない用語の説明を加えることの提案、事前にアナウンスすべき内容のすり合わせなどである。
Online Sharing Session(9月19日):
10月9日のIn-Tokyo Sharing Sessionに向けた、中間発表のような場。一般から公募した「ファーム ラボ ビジター」の方々をオーディエンスに迎えて行われた。各アーティストの発表に対して様々なコメントが寄せられ、オンラインでありながら活発に意見の交わされる場として機能していたと言える。Day1、Day2と時間を取ってコミュニケーションを取ってきた成果が出ている、という印象を受けた。このセッションを総括するとすれば、最後にファシリテーターが述べた「アイデアのお弁当箱のような時間だった」という言葉がぴったりだろう。5人の発表と、それに対するコメンテーターやオーディエンスからのコメントが、いくつものトピックと切り口を提示していた。