Asian Performing Arts Camp 中間セッション(9月2日)

関口真生(アシスタントライター)

個人の思考、アイデアの探求が交差する場所、Asian Performing Arts Camp。そこでは、アジアの様々な地域で活動する若手アーティストである8人がそれぞれの関心やアイデアを持ち寄り、語り合いながら、発展させ、さらにどのようにそれを伝えるかを探っています。

9/2に、Campメンバーによる中間セッションが行われました。他プログラムの参加者やファームラボビジターも参加し、総勢50人以上が集まるセッションとなりました。

升味加耀さんは、Googleのターゲティング広告や仮想世界についてのパフォーマンスを通して「カテゴライズの暴力性」を説きました。人はカテゴリーやレッテルの集合体であるという言葉と、大量の付箋をカテゴリーに見立てたパフォーマンスが印象的でした。

升味加耀「カテゴライズの暴力性」

安艺 (アン・イー)さんは、7人のダンサーの手紙を読み上げるのにデスクトップの読み上げシステムを用いていました。画面上に映される別々の場所の7人の踊りがデジタル上で交差し、個人の踊りが時間軸を超えて群舞へと変化していきました。

ウラップ・チュアさんの「ANIMO ー応援ー」では、言葉では表現しきれない経験を写真の永続性に託す試みがなされていました。たくさんの「眼」を使ったパフォーマンスで、その場にいる人に「希望が感じられる写真」を画面に見せてもらうことで、眼が徐々に剥がれていくという演出でした。その場で写真についての言葉を紡ぐ様子から、Zoom版のイマーシブシアターのような印象も受けました。

ウラップ・チュア「ANIMO ー応援ー」

梁辉杰 (ジェット・レン)さんは、ワヤン・クリ(Wayang Kulit)という伝統的な芝居に使われる操り人形についての発表でした。ワヤン・クリをバーチャル空間の中で再解釈、再構築することを試み、仮想空間で影絵芝居の上演や人形を展示することを目指しているそうです。伝統的な人形をバーチャルで再現するときに現実世界の手触りを保つ方法が気になります。

エーロン・カイザー・ガルシアさんの「博覧会なん?」は、「博覧会」の歴史や形式について調査しながら、フィリピンのパフォーマンスの位置づけを再考する企画です。Zoomの画面上にいきなり2アングルのダンスが写りました。なぜか惹きこまれてしまう魅力があり、参加者も自然と踊り出す雰囲気が構築されていました。背景が自宅っぽいのも親近感が湧いて好きです。

エーロン・カイザー・ガルシア「博覧会なん?」

朱曼寧(チュウ・マンニン)さんのプレゼンテーション「ON-SITE」では、オンライン上の創作で作品と観客の関わり方の度合いを上げていく方法はあるのか考えさせられました。生の表現にしか存在しない何かをオンライン上で掴もうとしているように見えました。「観客が指示に従う/従わない は観客に身体的感覚をもたらす」という言葉が印象的です。

アーサー・デ・オリベイラさんは、私たちが自分でも気づかないうちにオンラインへの耐性を身につけたことを、身体の変化という切り口で考察していました。仮想空間と仮想空間が身体に与える影響を「間(空間と時間上における間隙の感覚)」が具現化したものであるという考えをもとに、時間の狭間に存在する妖怪や、身体の内的空間を探求する舞踏についてのリサーチを進めていました。

アーサー・デ・オリベイラ「デジタル空間が身体内の越時性に与える影響」

筒 | tsu-tsuさんは、友人のドキュメンタリー作家であり、現在ミャンマーで拘束されている久保田徹さんとの会話をトレースして「声なきものとのダイアローグ」を試みました。「久保田さん役の筒さん」と「筒さん」が重なった時、存在しないはずの人の呼吸が聞こえた気がして息を飲みました。人を演じる過程を大切にしていることが伝わりました。

全体を通して印象に残ったのはCDT(コミュニケーションデザインチーム)、ATA(アートトランスレーターアシスタント)とCampメンバーの関わり方です。パフォーマンスの中で発表者の会話の相手役を任されていたり、ナレーションの役割を担っていたりと、CDTとATAは通訳者としてだけではなくパフォーマンスの共同創作者としてCampメンバーの表現に携わっていました。世界観に沿った喋り方、言葉選びを考えており、綿密な相談をした上で挑んだのだろうと想像できます。また、プレゼンテーション、Zoom上でのパフォーマンス、映像表現など、さまざまなアプローチが同時に行われていたことも印象的です。8人だけとは思えないほどの内容の濃さに圧倒されたと共に、大学の授業を受けた後に劇場に行って2作品観劇した日と同じくらいの疲労を感じました。

今回の中間セッションを見る限り、現段階でのCampは、参加者がもともと持っている興味関心や活動を共有する場として機能しています。しかし今後のCampには、対話を通して自分の活動に活きる新たなアイデアや表現手段を探す場所としての役割も求められていく気がしています。

左上: 安艺「集まる身体:シェアし、踊り、呼吸する」 右上:梁辉杰「再訪、再解釈、再創造」左下:朱曼寧「ON-SITE」 右下:筒 | tsu-tsu「声なきものとのダイアローグ」

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東京芸術祭ファーム プロセス発信

東京芸術祭ファーム ラボ「ファーム編集室」のアシスタントライターが、人材育成、教育普及の場である「東京芸術祭ファーム ラボ」のプログラムについて、活動の実態、創作過程をレポートします! https://tokyo-festival.jp/2023/