Farm-Lab Exhibition パフォーマンス試作発表『「クィア」で「アジア人」であることとは?』本番(10月7日~10月9日)

関口真生(アシスタントライター)

Farm-Lab Exhibition パフォーマンス試作発表『「クィア」で「アジア人」であることとは?』(セリーナ・マギリュー演出)の本番を控えたリハーサルを鑑賞しました。そこで観たものと、稽古場を見学した中で思ったことを交えてお伝えします。

「こんにちは〜」
にこやかに登場する葵さんに、観客の頬がふっと緩みました。会場となった東京芸術劇場 ロワー広場(地下1階)は開かれた場所であり、通りすがりの方が足を止めたり1階から地下を覗き込むような形で鑑賞することができます。葵さんが導入で観客一人一人と目を合わせて話すことで、「いま足を止めてくれたあなたのことも見ているよ」というメッセージを発しているように見えました。葵さんの緊張を解く時間であるとともに、観客の緊張を解く時間だったのかもしれません。

この作品は、参加者の3人による「日本の昔話の登場人物を選んで、その人物の視点で物語を語り直す」ワークを経て創作されました。取り上げられたのは「竹取物語」と「花咲かじいさん」。そのストーリーをパフォーマー自身の物語として再構築していきました。
私は稽古を何回か見学し、マギリューさんの演出方法に興味を持ちました。パフォーマーができるだけナチュラルに魅力的に見える出力を探っているように見えました。出演者の一人の𠮷澤慎吾さんが身体性、ムーブメントの技術に優れていることが分かると、それを活かしてかぐやが生まれる場面がつくられました。それは下界に降りて間もないぎこちない動作から自分の足で立ち、走り回って自由を噛み締める印象深いシーンとなりました。また、パフォーマーのノマドさんから「自分の意志で未来を切り開いていくかぐや」の話を聞いたマギリューさんは深く共感し、人に言われるがままに生きた従来のかぐや姫ではなく、自分の置かれた状況に不満を持ち、自分の力で超えていく強さを備えた新たな「かぐや」を創造しました。
「私の名前はシロです。シロと呼んでください」
「花咲かじいさん」のキャラクターであるシロ、下界に落とされた大月如来(かぐや)、成長したかぐやの3人の登場人物が、他人によって語られていた人生を自らの視点で語ります。

今回、パフォーマーの主張は昔話の登場人物を介して発せられました。しかし、台詞の中でパフォーマー自身の本音が直接的に現れる瞬間もあり、その人自身をもっと知りたくなることがたくさんありました。今回は創作トライアルだったたため、今後もこの作品の創作が続くとしたらどのように作品が発展していくのか興味を持ちました。葵さんが語り部のシロとして多くを私たちに語ってくれましたが、𠮷澤さんとノマドさんがもっと舞台上で喋る姿も見てみたいです。
私が見た回では、かぐや(ノマドさん)のすり足が速くなり被っていた黒装束のフードが頭から脱げるのと同時に、ノマドさんが上で束ねていた髪の毛が少しほどけました。直接的には関係ないのですが、稽古中のマギリューさんが長い髪の毛を髪ゴムなしで器用に一つにまとめていて、「あんなまとめ方があるんだ」と驚いたことを思い出しました。原作のかぐや姫は黒の長髪でしたが、自分の意志ではなく生まれてからずっと自然にそうしていました。生まれてから黒の長髪以外の髪型を知らないのです。下界で人の言われるがままに過ごしてきたかぐや姫は、現状に不満を持つことも自由を求めることもありませんでした。もしかぐや姫が自分の好きな髪型を考えたらどんな色、形だったのだろうと思いを馳せました。その「好きな髪型」を選び取ったかぐや姫を、私は、ノマドさんの髪がほどけたその瞬間だけ観たような気がするのです。その後、祭囃子が鳴り響く中で黒装束を脱ぎ捨てて赤い衣装に変わるかぐやは目を見張るほど綺麗でした。

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東京芸術祭ファーム プロセス発信

東京芸術祭ファーム ラボ「ファーム編集室」のアシスタントライターが、人材育成、教育普及の場である「東京芸術祭ファーム ラボ」のプログラムについて、活動の実態、創作過程をレポートします! https://tokyo-festival.jp/2023/