Farm-Lab Exhibition パフォーマンス試作発表『Education (in your language)』ランスルー(10月1日)

長沼航(アシスタントライター)

2022年10月1日、Farm-Lab Exhibition(以下、FLE)のランスルー(通し稽古)を見学しました。この日はセリーナ・マギリュー、y/n各演出作品について、それまでの稽古での成果発表が行われました。各作品のパフォーマーやスタッフ、ファーム ラボのディレクターである多田淳之介さん、メンターの長島確さん、中島那奈子さんが集まり、プロセスを共有していない人々に対して現時点でできているパフォーマンスを見せることで、その後のブラッシュアップを図るのが主な目的でした。

y/n(山﨑健太・橋本清によるパフォーマンスユニット)が演出する『Education (in your language)』のクリエーションチームはその日までに出来ているすべてのシーンを上演しましたが、大まかにいってしまえば、それは4人のパフォーマーがスクリーン上に映し出される質問にマルかバツかで答えていくというものでした。質問が出る。マルないしバツのエリアに移動する。質問が出る。マルないしバツのエリアに移動する。これが延々と繰り返される……というと、退屈なように聞こえるかもしれませんが、実際のパフォーマンスはもう少し変化に富んでいます。
たくさんの質問のなかには、一般常識を問うもの、ある地域の知識について尋ねるもの、個人の経験・経歴を訊くものなどと色々な種類があり、また答えるなかでパフォーマーが自分の身の上話をしたり、他のパフォーマーの回答・解答にリアクションをとったりします。こうして構造的に様々な要素が入れ込まれているので、観客としてはある程度飽きずに見ることができました。
そして何より、シグロさん、ディア・ハキム・K.さん、クリスティ・ライさん、橋本清さんの4名の振る舞いが、各人のパーソナリティを反映した自然なもののように見えることも、上演全体に彩りを添える要素になっていました。実際には、大半の発言があらかじめ決められたスクリプトに従っているわけですが、それでも上演全体がユーモラスで即興性を含んでいるように見えるのは、パフォーマー全員の資質とそれを活かそうとするディレクションの力のおかげだと思います。

パフォーマンス終了後には、フィードバックセッションが行われ、Slidoというオンラインツールを用いリアルタイムで寄せられる観客からのコメントに対して、y/nの山﨑健太さん、橋本さんや3人のパフォーマーら、クリエーションメンバーが応答しました。
コメントの中ではパフォーマーが出される問題に対して答えるという構造自体の面白さは肯定的に捉えられている一方で、Q&Aの構造がよりドラスティックに変化したり、枠組みの中で行動するパフォーマーの感情や動きの機微により触れたいという意見も目立ちました。システムの構築から一歩進んだところまで見てみたいというのは山﨑さんも意識しているらしく、これから新たに付け加える部分ではよりパフォーマー同士のやりとりが前景化するようにしていくと答えていました。
また、セッションの中で出た話題でとりわけ印象的だったのは、各パフォーマーにおける — — というよりも、y/nと日本国外から集まったパフォーマーのあいだにある — — 芸術観の差でした。アクティビズム的な芸術観、すなわち芸術をメッセージを伝達するための手段として利用する(べきである)という考えが東南アジアをフィールドにしている参加者には多く、y/nの採用する構造的なアプローチには明確な主張が見いだせないことに対して、当初は違和感を覚えるパフォーマーもいたようです。それゆえ、稽古では作品創作の前提も含めてディスカッションを重ね、演出家とパフォーマーがそれぞれ歩み寄りながら作品を作り上げるプロセスを経ることになりました。これは国際共同クリエーションだからこそ生じるものだったといえるでしょう。

FLEでは劇場での成果発表も、各回ごとのフィードバックセッションを受けて、少しずつ変わって行くのが大きな特徴となっています。これから作品がどのように発展していくのか、とても楽しみです。

--

--

東京芸術祭ファーム プロセス発信

東京芸術祭ファーム ラボ「ファーム編集室」のアシスタントライターが、人材育成、教育普及の場である「東京芸術祭ファーム ラボ」のプログラムについて、活動の実態、創作過程をレポートします! https://tokyo-festival.jp/2023/