Asian Performing Arts Camp 2023 ファシリテーターインタビュー(後編)

インタビュイー:山口惠子、ジェームズ・ハーヴェイ・エストラーダ(Asian Performing Arts Camp 2023 ファシリテーター)

インタビュアー:新井ちひろ、石川祥伍(東京芸術祭ファーム2023 ラボ ファーム編集室アシスタントライター)

インタビュー実施日:2023年10月7日
場所:東京芸術劇場 リハーサルルーム

(前半からつづく)

キャンプにおける植民地主義の歴史をどう考えるか

石川祥伍(以下、石川):
私が気になっているのは、このAsian Performing Arts Camp(以下「キャンプ」)が、あるいはアジア全体が、植民地主義の歴史や遺産のうえに成り立っているということ、そしてこのキャンプが日本で実施されていて、アジアのいろんな地域からアーティストが日本に集まっているという状況です。このキャンプにおける植民地主義を考えるうえで何が重要だと感じていますか?

ジェームズ・ハーヴェイ・エストラーダ(以下、エストラーダ):
複雑な質問だね。そうだね、2019年にキャンプに参加したときの話から始めようと思います。

(ビザを取りに)はじめて日本大使館に行ったとき、「ああ、私は日本に行くんだ」と寒気がしました。というのも、私は日本にまつわる歴史をよく知っているから。私の母が、こんな戦争があったとか、彼女の祖母がレイプされるかもしれないと日本兵を恐れていたとか、こんな残酷なことがあったとか、植民地支配の話を聞くたびに、いろいろなことに気づかされました。

また、私が幼い頃、庭師が校庭から刀を掘り出しました。私の父がその刀を持ち帰り、家に保管していました。私はこの刀が戦時中に使われたことを知っていたので、「この刀は誰のものだったのだろう? この刀で殺された人たちは誰なんだろう?」といつも想像していました。だからキャンプの初日、私は(耳を指差しながら)ここに刀のピアスをつけていました。そうすることで、暴力的なことを自分にとって小さなこと、自分でコントロールできるものにしようとしているんです。

日本大使館は白く整然としていて、とても支配的な雰囲気で、「ここで何をすればいいんだろう?」と感じました。ここで私はかつての植民者と向き合っている。この人たちは新しい世代であるかもしれないけど、彼らの祖父母は私の曽祖父母をレイプしようとしたわけです。そんなことを感じていました。

ここ数年、私はこのことにどう反応すべきかを考え続けてきました。意外なことに、フィリピンの人たちは植民者のことが大好きでした。アメリカのことが好きで、スペインのことが好きで、テレノベラも大好き。そして、日本人のことも大好きです。でも、それは私たちが植民地主義をそれほど理解していないということでもあると思うのです。私たちはそのせいで、戦争のせいで、自分たちのことを小さい存在として認識し、自分たちのアイデンティティを傷つけようとしてきました。戦争のせいで、私たちは植民者たちを偶像化しました。その結果、「あなたたちは私たちよりも優れている」という考えがいまだに存在しています。だから、私たちは常に日本人が私たちよりも優れていると考えているのです。だからこそ日本に行くとき、自分には日本に持っていけるようなアイデンティティがないという不安を感じました。

でも、自分がいる「この今」というコンテクストで十分なのかもしれない、と少しずつ考えられるようになったんです。というのも、私はアーティストとしてだけでなく、フィリピン人ですし、マニラ中心の文化地区に住んでいるわけではなく、地方に住んでいます。アーティストの機会を地方に分散させようとしていることは、私が持つコンテクストの一つです。

抑圧され周縁化されたアーティストである私が、世界でも有数の強国である日本の首都である東京で発言をしている。このことは、私と私のコミュニティにとって大きな意味を持ちます。なぜなら、小さなコミュニティから来た人の話を誰かが聞いてくれているという事実は周縁化されたアーティストに多くの機会を生み出し、私の教え子たちにも、将来私のようになれるかもしれないという希望を与えるからです。

だから、自分のことを聞いてくれて、自分のコンテクストを理解してくれるプラットフォームがあって、とても嬉しいです。国と国とのあいだには国力の差や歴史的な関係によるヒエラルキーが存在します。でも、このプログラムでは自分の意見を伝えることができたんです。アーティストがそれぞれが持つコンテクストを共有しながら制作することは、植民地主義に対抗するために非常に重要な取り組みだと思います。

植民地主義に対抗するための方法を探ろうとする中で、「ケア」と「共にいること」の実践にも行き着きました。私たちがケアを与えることで、未来に直面するとき、誰かの上を歩くのではなく、誰かと一緒に歩くことができる。私は今そうやって演劇をつくっているし、自分のコミュニティのためにこの実践に根ざしたプロジェクトをつくり続けたいと思っています。

だから、私はいつも「共にいることの演劇」について話しているんです。連帯感などというと、多くの人は「そんなの安っぽい」と言うでしょう。でも、どうして安っぽいと思うのでしょう?私たちは、残酷なほどにアカデミックになることもできるし、時には一緒になって未来に立ち向かおうとすることもできるのです。

ファシリテーターのジェームズ・ハーヴェイ・エストラーダ(In-Tokyo Sharing Sessionより。写真:松本和幸)

石川:
共有していただいて、ありがとうございます。

山口惠子(以下、山口):
私は2020年からオンラインでキャンプに参加しているのですが、その年 (2020年) 、インドネシアとフィリピンと日本の三者がファシリテーターだった。それがすごく魅力的でした。東京都のプログラムだから日本人がファシリテーターをしているのではなく、すでに他のアジアの国々の人を巻き込んで、このプログラムをつくっていることはめちゃくちゃかっこいいし、魅力的だなと思ったのはありますね。

エストラーダ:
2019年に私がはじめてキャンプに参加したとき、参加者の間でちょっとした対立がありました。私は韓国、フィリピン、マレーシア、インドネシアからの参加者とともにジョグジャカルタにある家に滞在していました。そして、「私たちはどうして日本人がこのプログラムをやっているのか?」、「どうして私たちはここにいるのか?」と自問しました。また、私たち参加者の共通点を探る中で、「このキャンプは植民地化の一形態なのか?」、「東京がアジアの芸術の中心であると言いたいのだろうか?」という疑念が湧きました。つまり、日本は強国として予算を持っているからこそ、このようなことができている。あなたたちは東南アジアから来たのだから、文化やいろんなことを学ぶ必要があると、このキャンプは言わんばかりでした。

キャンプ参加者たちは、私たち東南アジアのアーティストが投げかけた問いと向き合う必要がありました。最初は、誰もこれらの問いにうまく答えられなかったと思います。というのも、植民地時代の過去についてその場にいた何人かの日本人でさえ、ほとんど知識がなかったからです。

日本のアーティストたちは、私たちが彼らのことを非難していると考えることもありました。しかし、個人レベルではそうではありませんでした。未来に向かうために、このようなプログラムをどのようにフレーミングするかということについて考えていたのです。東南アジアの人たちよりも自分たちのほうが力があり、豊かで優れている、と彼らが考えるのであれば、それは問題だからです。

いろんな国の人たちが集められるとき、私たちはその目的を理解する必要があります。誰がこの輪のなかで発言するのか。このプログラムがつくられた当初には日本の文化を他の人に教えようという考えもあったかもしれません。それはこのプログラムの歴史の一部分であるかもしれませんが、時代が変わり、より多くの対話が生まれ、そしてより良い未来に向かっていくことを期待しています。

山口:
このキャンプを日本で、東京でやることには、今ジェームズが言ってくれたような危うさがあると思います。ただCDT(コミュニケーションデザインチーム)が、英語でアジア圏の人たちが話すことや、私たちが持っているパワーバランスについてレクチャーしてくれることが、このプログラム全体の考え方を導いていると思っています。

自分自身、日本に住んでいる立場でしか考えることができず、それによって無意識に偏ったことを発してしまうことに危うさを感じるので、それ自体にストップをかけられる意識を持たせてくれるのは、このプログラムの大きな宝だと思っています。

ともにセーフスペースをつくること

新井ちひろ(以下、新井):
今、お二人にこのプログラムが含んでいる危うさについて話していただきました。

プログラムの中で、倫理的な問題が出てくることもあるかもしれません。プログラムの形式や参加者それぞれの研究計画の進行に関して、倫理に反する問題が起こった場合、ファシリテーターとしてどのように介入するのでしょうか。どのような場合に介入し、どのような場合に様子を見るのか、基準はありますか。

山口:

シチュエーションによるとは思うんですけども、まずは自分がおかしいなと思ったら、誰にでも言える環境にはしておきたいと思っています。おかしいって感じたときにそれを言ってみて、みんなの意見を聞く。自分が思ってたのと違うことをみんなが言っているのであれば、それでいいと思うんです。けど、まずはその状況をつくることが一番の方法だと思います。

これは個人的な反応だったのですが、昨年ある参加者の作品の中で、女性を目隠しして水責めにするという表現がありました。あくまでも作品の中で使われている表現なので、それ自体を見せることが意図ではなかったんです。でも、私がその表現に強く反応してしまって、そのことを言おうか言わないか迷ったことがあったんですよ。だけど自分がモヤっとしたことを言えたらいいと思って、まずはCDTとジェームズにシェアしたあと、その参加者と話しました。そうやって話したことで、自分が救われたんです。モヤっとしたことを言える環境だったことにはとても感謝しています。

エストラーダ:
セーフスペースをつくることは重要だと思います。でも、対面のキャンプより、オンライン上でセーフスペースをつくる方が簡単だとも思います。オンラインの空間では、文化の違いを受け入れることができます。ミュートするのは簡単だし、もうこれ以上この問題について話したくないと言うのは簡単です。話題を変えるのも。オンライン上ではセーフスペースを作るのは簡単であると同時に、誰かを黙らせるのも簡単です。

対面では一緒にいる。でも、対面では仮に問題が起こったとしても、すぐに対処することができます。ちょうど昨日、「ある人と対立したとき、その対立を表面化させるかどうか」という話になったとき、私は「よく対立するけど、それを表に出すときの緊急性は理解している」と答えました。つまり、倫理的な問題に対処する際には、いつ対立を表に出すか、いつそれが緊急性を要するか、が重要だということです。

また、どのようにこの対立を表面化させたいのか。これも重要です。他の人の前で対立を表面化させることで、対立している相手を公然と非難し、それによって新たな問題が生まれるかもしれませんし、他方で関連する多くの問題を一気に対処できることもあります。

このように対面の場において、倫理的な問題とその対処法を考えるのはなかなか厄介なことです。大事なのは、その問題がどのくらい重大なのか、誰が関わっているのか、どのくらいの人数に関わることなのか。キャンプでこれらをすべて扱うのはちょっと難しいので、今後も考えるべきだとは思いますが、まずは混乱を招かない程度になるべく早く対処すべきだと思います。

結局、基本的な考え方はセーフスペースをみんなでつくることだと思います。セーフスペースは権力者がつくるものではなく、お互いを気遣えるコミュニティや信頼関係がつくるものです。そして、セーフスペースはもともと脆弱なものだということを理解することです。今日セーフスペースであったとしても、明日にはそうじゃなくなるかもしれない。でも新しいセーフスペースをつくる時間もあるわけです。そうすれば、いつかセーフでないスペースはなくなり、倫理的な問題にも対処できるかもしれない。より良くなるために明日がある、別の日があるという考え方が対処の方法になりうるんです。

ですから倫理的な問題にどう対処するか、それは時間と空間を理解することかもしれませんね。それは身体がおかれた空間で起こるパフォーマンスのようなものです。その場その場で対処法は異なるし、正直言えば、大変な仕事です。でも最終的にはコミュニティが決めることなんです。信頼関係をどのように構築するか、一緒に試してみることが大切なんです。それをすることで、より多くのものを生み出し、より多くのことを成し遂げ、アーティストとしてより良くなることができるんです。人格が腐っていると、美学も腐ってしまいますよね。

石川:
今のお話を聞いて、人としてすごく勉強になりました。

新井:
今回はお時間を取っていただいてありがとうございました。

エストラーダ:
このインタビューの質問は反省を促すものだったので、私たちにとっても役に立ちました。

山口:
ジェームズと二人で話すことはあるけれど、あまりこのような話を他の人たちとする機会はないので、よかったです。

(おわり。構成・文:石川祥伍)

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Written by 東京芸術祭ファーム プロセス発信

東京芸術祭ファーム ラボ「ファーム編集室」のアシスタントライターが、人材育成、教育普及の場である「東京芸術祭ファーム ラボ」のプログラムについて、活動の実態、創作過程をレポートします! https://tokyo-festival.jp/2023/

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